vol.672【経営コラム】競争に勝つための「ストーリー型戦略」

…施策に一貫したストーリーを持たせる!

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

■1.「部分最適」ではなく「ストーリーとしての競争戦略」が必要

中小企業の経営では、「売上を伸ばす」「コストを削減する」といった個別施策に注力しがちです。しかし、それぞれの施策がバラバラでは、競争優位性を築くことはできません。

一橋ビジネススクールの楠木建教授が著書『ストーリーとしての競争戦略』で示しておられるように、成功する企業はすべての経営施策が「つながり」、一貫したストーリーを持っていることが特徴です。

例えば、価格競争に巻き込まれない企業は、単に「良い商品」を作るだけではなく、顧客に伝わる独自の価値を持っています。これは「安いから選ばれる」のではなく、「この会社だから選ばれる」という状況を作ることにほかなりません。

■2.「ストーリー型戦略」を持つ企業の成功事例

●IKEA:「セルフサービス型家具販売」の徹底

IKEAは、安さを追求するだけではなく、以下のような一貫した戦略を持っています。
・自分で組み立てる前提の家具 → 輸送コスト削減
・巨大店舗でワンストップショッピング → 効率的な在庫管理
・低価格だがデザイン性の高い商品 → ブランドイメージの統一

これにより、「安くておしゃれな家具を、自分で選び、持ち帰る」という独自のストーリーを確立し、他社が簡単に模倣できない競争力を築きました。

●スターバックス:「体験」を売る戦略

スターバックスは、単にコーヒーを売るのではなく、「第三の場所(サードプレイス)」としての価値を提供することで成功しています。
・高級感のある内装とBGM → リラックスできる空間を演出
・パーソナライズされた接客 → 顧客とのつながりを強化
・高価格帯の設定 → 「安さ」ではなく「体験」に価値を持たせる

もし、価格競争に巻き込まれて「安いコーヒー」を売る方向にシフトすれば、このストーリーは崩れ、競争力を失うでしょう。

■3.中小企業が実践すべき「ストーリー型競争戦略」

◆1.「価格競争からの脱却」を意識する

多くの中小企業は、競合と差別化するために価格を下げがちですが、これは持続的な競争戦略ではありません。むしろ、「なぜこの会社なのか?」を明確にすることが重要です。

例:地域密着型の飲食店の場合
「競争に勝つために安売りをする」
「でも高級食材を使って差別化もしたい」
どっちつかずになり、ブランドがぼやける

「地域の常連客を大切にする」というストーリーを明確にして、価格ではなく、「特別なサービス」や「地元のつながり」を強みにするべきです。

◆2.「競争しない競争」を目指す

楠木教授は、「競争戦略とは、他社と違う価値を作ること」だと述べています。つまり、同じ土俵で戦うのではなく、自社独自の価値を打ち出すことが必要です。

例:町工場の成功例
「安い下請け業務で仕事を増やす」
「世界で唯一の技術を持つ職人集団としてブランディング」
大手メーカーの下請けではなく、自社ブランド製品を開発

競争が激しい市場で「少しだけ良い」企業を目指すのではなく、「この会社だからこそ提供できる価値」を追求すべきです。

◆3.すべての施策を「一貫性のあるストーリー」にする

競争優位性を築くには、経営のあらゆる要素が統一されている必要があります。

例:「高品質な商品」を売る会社の場合

価格設定 → 高品質だからこそ安売りはしない
接客スタイル → 丁寧な説明とアフターサービスを徹底
広告・マーケティング → ターゲット層に適したブランディングを行う

単なる「高品質な商品」というだけではなく、それを支えるストーリー全体の整合性を確保することが重要です。

■4. 提言:「ストーリーのある経営」で競争力を高めよ

中小企業経営者への提言…
◎競争は「他社より少し良い」ではなく、「独自の価値を作る」こと
◎部分最適(売上拡大・コスト削減)ではなく、全体の一貫性を重視する
◎成功企業の真似ではなく、自社独自のストーリーを確立する

価格競争に巻き込まれないためには、「この会社だから選ばれる」という独自の価値を持つことが不可欠です。そのために、自社の経営をストーリーとして捉え、施策の一貫性を確保し、競争に「勝たない」競争を実現することが求められます。

「安いから選ばれる」のではなく、「この会社だから選ばれる」会社を目指したいものです。

引用:『ストーリーとしての競争戦略』東洋経済新報社、一橋ビジネススクール教授楠木建氏著

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)