vol.671【経営コラム】中小企業が積極的な値上げを進めるための提言!

●1.顧客に対して価値を明確に伝える
●2.小幅な段階的値上げを行い、抵抗を和らげる
●3.価格競争から脱却し、付加価値を高める

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

近年、物価の上昇に伴う原材料価格の高騰や、人手不足に起因する人件費の上昇が企業経営に深刻な影響を及ぼしています。
特に中小企業にとって、価格転嫁を行わずにコスト増を吸収し続けることは、利益の圧迫につながり、最終的には事業の存続を危うくする可能性があります。しかし、値上げを実施することで顧客離れが起こることを懸念し、踏み切れない経営者も少なくありません。

本稿では、中小企業が値上げを積極的に進めるための具体的な方法と、実際に成功した事例を3つ紹介しながら、適正な価格設定の重要性について提言します。

●1.価値を伝えることで顧客の納得を得る
(老舗和菓子店の成功事例)

値上げを行う際に最も重要なのは、「なぜ価格を上げるのか」を顧客に納得してもらうことです。ただ単に「原材料が高騰したから」という理由ではなく、自社の商品やサービスの価値をしっかり伝えることが大切です。

例えば、ある老舗の和菓子店では、原材料の質を落とさずに伝統の味を守るために価格を10%引き上げました。しかし、単に値上げを発表するのではなく、店頭やホームページ、SNSを活用して「厳選した国産素材を使用し続けるための決断」であることを伝えました。さらに、商品の製造工程を公開し、職人の手仕事の大切さを強調することで、顧客の理解を得ることに成功しました。その結果、売上の減少を抑えながらも利益率を改善することができました。

このように、値上げを単なる「コスト増への対応」ではなく、「価値を維持・向上するための施策」として伝えることで、顧客の理解を得やすくなります。

●2.小幅な段階的値上げで顧客の抵抗を和らげる
(カフェチェーンの取り組み)

一度に大幅な値上げを行うと、顧客が価格の変化を強く意識し、利用頻度が下がる可能性があります。そのため、段階的な値上げを行うことも一つの有効な手段です。

全国展開するあるカフェチェーンでは、原材料価格と人件費の上昇を受けて、主要メニューのコーヒーを一気に30円値上げするのではなく、半年ごとに10円ずつ上げる方法を採用しました。また、値上げに合わせて「より香り高い豆の使用」や「バリスタの技術向上」といった付加価値も同時に提供することで、顧客の満足度を維持しました。

その結果、顧客は値上げに対する抵抗感を持ちにくくなり、売上の減少を最小限に抑えることができました。このように、段階的な値上げを採用することで、顧客の心理的負担を和らげることが可能です。

●3.価格競争から脱却し、付加価値を高める
(町工場のブランディング戦略)

価格競争に巻き込まれないためには、「安さ」ではなく「品質」や「独自性」で勝負することが重要です。

ある町工場では、従来は低価格を売りにした製品を製造していましたが、大手メーカーとの競争が激化し、利益率が低下していました。そこで、単なる安価な製品ではなく、高い精度が求められる高付加価値製品の開発にシフトしました。同時に、工場の技術力を前面に押し出したブランディングを行い、「高品質な日本製」としての価値を訴求しました。結果として、価格を引き上げても取引先は離れず、むしろ新規顧客が増加しました。

このように、他社との差別化を図り、付加価値を高めることで、単なる価格競争に巻き込まれずに適正な価格を維持することができます。

値上げは、単にコスト増を補填するための手段ではなく、企業が持続的に成長するための戦略の一環として捉えるべきです。

  • ●1.顧客に対して価値を明確に伝える
  • ●2.小幅な段階的値上げを行い、抵抗を和らげる
  • ●3.価格競争から脱却し、付加価値を高める

これらの施策を適切に組み合わせることで、売上の減少を最小限に抑えながら利益を確保し、安定した経営を続けることが可能になります。中小企業経営者の皆様には、単なる「値上げ」ではなく、「適正価格の確立」として前向きに取り組んでいただきたいと思います。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)