vol.665【経営コラム】老害の典型例、フジメディアHDについて

…中居氏事件で転換を図れるのか?

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

少なくない日本の大手企業では、昭和時代の経営スタイルが今だに根強く残っています。特に、長期間にわたって指揮を執る経営陣の高齢化や、硬直的な組織運営が問題となっています。
その典型例として挙げられるのが、フジ・メディア・ホールディングス(以下、フジメディアHD)です。同社の現状は、昭和型経営が抱えるさまざまな課題を浮き彫りにしています。

■1. 経営陣の高齢化と革新性の欠如

フジメディアHDの取締役陣を見ると、その多くが60代から80代という高齢者で占められています。例えば、日枝久取締役相談役は87歳、茂木友三郎取締役(監査等委員)は89歳と、業界でも最高齢に近い経営陣が要職に就いています。このような高齢化した経営陣が多いことは以下のようなデメリットを生み出しています。

●市場変化への対応の遅れ
メディア業界は、ネット配信やAI技術など、急速に変化しています。しかし、高齢化した経営陣では新技術や新しい視点を積極的に取り入れる柔軟性が不足しており、競争力の低下を招いています。

●組織の硬直化
長期間にわたり同じ体制で運営されることで、社内文化が保守的になり、新しいアイデアや人材が育ちにくい環境が生まれます。

■2. 業績指標の低迷

昭和型経営の弊害は、経営成績にも表れています。以下は、フジメディアHDにおける具体的な課題です。

●PBR、株価純資産倍率の低迷
フジメディアHD のPBRは0.5を割り込んでいます。広告収益や視聴率の低下、さらには事業構造の効率性の欠如を反映しています。これは、従来型のテレビ放送に依存し、デジタル事業への投資や転換が遅れていることが原因と考えられます。

●ROE、自己資本利益率の低迷
フジメディアHDのROEは6%弱、投資資本が十分に収益を生んでいないことを示しており、経営資源の効率的な活用が求められます。

■3. ガバナンスの問題と株主からの不信

昭和型経営の特徴として、経営陣の入れ替えが少なく、ガバナンスの欠如が挙げられます。フジメディアHDでは、アメリカの投資ファンド、ダルトン・インベストメンツがガバナンス体制に対して強い批判を行っています。特に、以下のような問題が指摘されています。

●経営陣刷新の遅れ
投資家からの意見や提言を軽視する体質が、経営の硬直化をさらに助長しています。これにより、投資家からの信頼が低下し、株主価値の向上が阻害されています。

●スポンサー離れ
経営判断の遅れや対応力の欠如により、主要スポンサーがCMを取りやめるケースも見られ、広告収益の減少を招いています。

■4. 昭和型経営からの脱却に向けて

フジメディアHDの例は、昭和型経営が日本企業における競争力をいかに低下させるかを示す象徴的な事例です。これらの問題を解決し、持続可能な経営を実現するためには、以下の施策が求められます。

●経営陣の若返り
新しいアイデアを取り入れるために、経営陣の年齢構成を見直し、若手や外部の多様な人材を登用する必要があります。

●デジタル化とイノベーションの推進
テレビ放送に依存したビジネスモデルから脱却し、ストリーミングやデジタルコンテンツ事業への本格的な転換が急務です。

●株主との対話の強化
株主の意見を取り入れることで、ガバナンスを強化し、企業価値の向上を目指す必要があります。

フジメディアHDにおける昭和型経営の弊害は、日本の多くの企業が直面する課題と共通しています。経営陣の高齢化、業績悪化、株主の信頼低下といった問題は、現代の急速に変化するビジネス環境に適応するための障害となっています。こうした状況を打破するには、経営陣の若返り、多様性の確保、そして柔軟かつ革新的な経営手法の導入が不可欠です。

フジメディアHDの事例は、日本企業が競争力を維持し、グローバルな舞台で生き残るための教訓となるでしょう。これからの時代に適応するためには、昭和型経営からの脱却が急務です。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)