vol.651【実践コラム】建設業の融資申込み成功のカギ

…決算書の提出だけでは不十分です。

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広

建設業を営むA社長からの相談です。「融資を申し込んだところ、工事台帳の提出を求められた。作成したことがないので手伝って欲しい。」という内容でした。この相談は、多くの建設業経営者が直面する課題を反映しています。

■ 金融機関から見た建設業の特殊性

金融機関から見て、建設業の決算書には実態を把握しづらい要素がいくつかあります。特に注目すべきは、建設業独特の勘定科目である完成工事未収入金や未成工事支出金です。

建設業は1工事あたりの金額が大きく、毎月の売上も変動するため、これらの科目も大きく変動します。残念ながら、その特性を利用して粉飾決算をする企業もあるため、金融機関は融資に慎重になります。

■ 工事台帳の重要性

金融機関の不安を払拭するのに有効な資料が工事台帳です。金融機関が工事台帳から読み取りたい主な内容は以下の通りです。

1)工事ごとの利益状況:各工事の利益率と決算書の利益率が大きく乖離していないことを示すことで、決算書の正確性を証明できます。

2)工事のスケジュール:将来にわたって、工事がどのように進行し、どのタイミングで売上が立つかを示すことで、今後の業績の見通しを理解してもらえます。

■ 工事台帳の具体例

工事台帳は以下のような形式で作成します。

工事名:○○ビル建設工事
発注者:△△株式会社
工事期間:2025/4/1 ~ 2026/3/31
契約金額:100,000,000円
実行予算:80,000,000円
進捗率:30%
売上高(累計):30,000,000円
原価(累計):24,000,000円
粗利益(累計):6,000,000円

■ 資金繰り表の重要性

工事台帳に加えて、資金繰り表も提出すると効果が高まります。建設業は決算書の損益とキャッシュの動きに乖離があるため、全体のお金の流れを示すことが重要です。

■ 建設業の融資申し込みのポイント(まとめ)

1)建設業は決算書の提出だけでは不十分です。
2)工事台帳で工事ごとの利益率を示し、決算書の正確性を補足しましょう。
3)工事スケジュールを示し、現在の受注残と今後の売上見込みを説明しましょう。
4)資金繰り表を作成し全体のお金の流れを説明しましょう。
5)設備資金の場合は、さらに詳細な事業計画書が必要になります。

融資申込資料は単に作成すればよいということではありません。金融機関の意図をくみ取った資料を作成することが、融資を受けられる確率を高めるカギとなります。

※融資申込資料の作成でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。弊所にて専門家がわかりやすく丁寧にサポートいたします。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)