vol.643【経営コラム】優秀なのに成功しない理由
…経営者業務と執行業務のバランスが悪い!
(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
中小企業経営者は、百%経営者業務のみを行っているわけではありません。執行部分、大企業流に言うなら執行役員部分や部長、場合によっては担当者の仕事も担っています。経営者業務と執行業務を分けて考えておかないと、どうしても執行業務に追われます。結果として、経営者不在の経営が続くことになります。
■優秀な店舗デザイナーA氏は、数名を連れて起業しました。
- A氏は優秀なデザイナーです。デザインのクオリティーは抜群です。デザインを24時間考え続けながら、素晴らしいアウトプットを行います。クライアントからも高い評価を得ています。執行者として評価するなら満点かもしれません。
- 一方、会社の経営は順調ではありません。仕事を安定的に受注する仕組みがないからです。A氏はいつも、店舗のデザインに関する読書に耽っています。A氏は店舗デザインが大好きで、24時間365日そのことのみを考えています。
- この会社は経営者不在の状況が続いています。A氏は、自分の好きなデザインに対する執着は強いものの、経営を考えることが嫌い、苦手なようです。会社としての成長は難しいでしょう。本来A氏は、トップデザイナーとしての執行業務と、社長としての経営者業務を同時に担わねばなりません。今のA氏は、後者の業務を行っていません。経営が上手くいくはずありません。
逆に、創業者や小規模企業経営者の場合、自分自身が執行者としての役割を果たさず、もっぱら経営のみに専念することも、物理的に不可能です。最も優秀な執行者、社員としての業務を担うことも必要です。
■経営管理に長けたB氏は、数名を連れて起業しました。
- B氏は上場企業の取締役まで経験した敏腕ビジネスマンです。経営管理は大の得意分野です。机上での計画書作りやマネージメントは得意ですが、現場で業務を執行するつもりはないようです。大きな資本で、人材を確保して始める起業ならこれで良いのですが、小資本・少人数での起業には向かないタイプです。
- 創業者や小規模企業経営者の場合、自らが最も優秀な開発マン・営業マンでなければなりません。この機能を他人に頼るのは、その資金力に無理があります。経営者としての仕事だけでなく、執行者としての仕事の比率を高くとる必要があります。
小さな会社と大きな会社では、その仕組みが異なります。小規模創業から企業規模を拡大できた経営者は、その経営者としての仕事と、執行者としての仕事の割合を上手にコントロールできてきたようです。
■経営者業務と執行業務の業務比率のイメージ…
◆創業時の業務比率、経営者業務:執行業務=2:8
◆50人超の人員の時の比率、経営者業務:執行業務=6:4
◆300人超の人員の時の比率、経営者業務:執行業務=9:1
◆1,000人超の人員の時の比率、経営者業務:執行業務=10:0
○創業時の業務比率、経営者業務:執行業務=0:10の経営者がいます。A氏です。食ってはいけるかもしれませんが、会社の成長は望めません。
○創業時の業務比率、経営者業務:執行業務=10:0の経営者がいます。B氏です。そもそも会社が立ち上がらないはずです。(大資本での創業は除く。)
経営者は、会社の置かれている状況やステージによって、その業務分配比率をバランスよく調整していかねばなりません。このバランス感覚も、経営者にとって必要な資質の一つです。
田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)