vol.642【実践コラム】中小企業の成長を支える攻めの財務戦略
…中小企業の柔軟性は大企業にはない強みです。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
財務戦略とは、企業の将来の見通しを立てながら、必要な投資やコスト、それに対する原資について検討、分析し、計画を立て実行することを意味します。最も効率良く利益を増やすために、いつ、どこから資金を調達し、どこに資金を費やせば良いかを慎重に検討することが重要です。
中小企業にとって、攻めの財務戦略は特に必要です。資金ニーズが発生してから資金調達を考えるのではなく、資金ニーズが発生することを予測し、または自ら資金ニーズを創出して、資金調達を積極的に行うことが「攻めの財務戦略」です。
■ 財務戦略が無い場合
- 月末の資金不足:直前にならないと分からないことが多く、財務計画が不十分です。例えば、リアルタイム財務を導入することで、経営に関する数値や情報が直近のもの、かつ正確であるため、経営判断や投資判断が容易になります。
- 突発的な支出:機械の故障など、予期せぬ支出に対応するのが難しくなります。具体的には、予備費の設定やリスク管理策を講じることで、突発的な支出にも対応できるようになります。
- 急なビジネスチャンス:余裕資金が無いため、急なビジネスチャンスに対応できません。例えば、キャッシュフロー管理を強化することで、突然のビジネスチャンスにも迅速に対応できるようになります。
行き当たりばったりの経営では、有事への対応力が弱く、安定した経営が難しい状況に陥りやすいです。また、投資の効果を考慮しないため、結果的に無駄遣いが多くなってしまいます。
■ 保守的な財務戦略の場合
- 企業体質の硬直化:「新しいことは何もしない」という姿勢で、企業体質が硬直化してしまいます。例えば、定期的な事業レビューを実施することで、必要な投資の再考や優先順位の検討が可能になります。
- 投資効果の薄れ:自社の事業の投資効果が薄れても、気づかないまま事業を継続してしまいます。具体的には、KPI(主要業績評価指標)を設定し、定期的にレビューすることで、投資効果を常に監視できます。
- 新しいビジネスチャンスの見逃し:視野が狭くなり、新しいビジネスチャンスを見逃してしまいます。例えば、市場調査や競合他社の動向を常に監視することで、新しいビジネスチャンスを把握しやすくなります。
近年、10年安泰な事業は少なく、一定のリスクを冒さなければ、成長することはもちろん、生き残ることすら難しい時代です。
■ 攻めの財務戦略の場合
- 積極的な資金調達:資金調達を積極的に行い、キャッシュポジションを常に高く維持しています。例えば、金融機関との関係を強化し、必要に応じて迅速に資金調達ができるようにします。
- 安定した資金繰り:資金繰りが安定し、落ち着いて経営ができます。リアルタイム財務の導入や財務ソフトウェアの活用により、財務状況を常に把握しやすくなります。
- スピーディな対応:ビジネスチャンスがあれば、迅速に対応できます。例えば、予備資金を設定し、急な機会にも即座に対応できる体制を整えることが重要です。
- 計画的な投資:機械の買い替えなど、投資計画を立てることで計画的に資金調達ができます。長期的な投資計画を立て、優先順位を設定することで、効率的な資金使用が可能になります。
- 事業モデルの進化:自社の事業モデルの進化発展を常に考えるようになります。定期的な戦略会議を実施し、市場の動向や技術の進化を踏まえた新しいビジネスモデルを検討することが重要です。
しっかりと計画を立て、先回りして資金調達に動きます。資金に余裕を持つことで、経営の選択肢が広がります。
大企業でさえ、成長分野を探して資金を投下し、事業モデルを変化させながら生き残りを図っています。大企業よりも小回りの利く中小企業にこそ、攻めの財務戦略が必要ではないでしょうか。中小企業はその柔軟性を活かし、迅速な財務戦略の変更が可能であるため、成長に寄与することが多いです。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)