vol.571【経営コラム】競合との差別化戦略!(その2)
…重要な一点を外す、時には逆張りする!
(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
■間接資材の卸売業を営むBIGな超優良企業T社さんの話です。
■卸売業である当社は膨大な在庫を抱えています。
さて、経営者はどこを管理するでしょうか?
あなたが管理部長なら、どんな指標をKPIに置くでしょうか?
コンサルタントならどんな助言をするでしょうか?
■一つ目は、在庫回転率です。
在庫回転率とは、一定期間内に在庫がいくつ出入りしているかを示す指標で、これが高いほど経営効率が良いとされ、通常は高くする、一定以上を維持することを目指します。
同業者との差別化の観点から考えてみましょう。
同業者は在庫回転率の目安として業界水準を探り、それを基準に目標を決めて管理します。経営管理ができる会社であれば、概ね業界水準を遵守し、業界水準よりも高ければ良い、と考えます。この指標を見た経営陣やステークホルダーからほめてもらえます。
■ここに大きな問題点が潜んでいます。
同じ商品属性を扱う同業者が、最大のKPIを在庫回転率と定義して、業界水準以上を目指すとどうなるか、コモディティー化、同質化が起きます。皆の在庫がほぼ同じ状態に向かって収束します。もちろん差は残りますが、それは努力の差であり、戦略の差ではありません。
■さて、世の中には一般常識が存在します。その常識を掛け合わせると、極めて納得しやすい素晴らしい?経営戦略らしきものが生まれます。それを見た経営幹部は、常識的であるがゆえに、承認しやすくなります。承認までに多数のハンコを要する大企業においては、特にこのような常識的な戦略が採用されやすいのでしょう。
■間接資材の卸売業を営むBIGな超優良企業T社さんの話に戻しますが…
この会社の戦略は…
・在庫回転率を気にしない
・逆に、在庫ヒット率の向上を図る
です。
※「在庫ヒット率」とは、顧客から受けた注文のうち、自社在庫から出荷した割合を示すT社の独自指標です。
T社さんは、在庫があって、早く納品できることが売上に直結するKPIであり、そもそも在庫回転率はお客様には関係ない指標だ、との方針で経営を続けておられます。もちろん在庫の増加を野放図のまま放置しているわけではなく、デジタルやAI技術を最大限活用して抑えておられるようです。
■差別化の観点で整理します。
◎普通に経営すると普通に収束し、差別化できなくなる。
◎逆に、すべてを普通でなくすると、経営が難しくなり破綻しやすくなる。
◎基本は論理に沿って常識的に経営しながら、重要な一点を外す、時には逆張りする。
これが差別化戦略の要諦ではないでしょうか。
T社様、トラスコ中山株式会社様、すごい会社を紹介させていただきました。
田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)