vol.518【実践コラム】手元資金を潤沢に持つ

…借りられる時に借りられるだけ借りておきましょう。

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広

財務の教科書には、借入は少なく、自己資本を厚くと書かれています。借入(負債)が増えると自己資本比率が悪化するため、できるだけ借入はしないようにというのが財務のセオリーです。

実際に大企業は余分な借入をしないよう資金管理を行っています。しかし、中小企業が大企業の戦略をそのまま見習うのは大変危険です。信用力に劣る中小企業は、借りたいときにいつでも借りられるとは限らないためです。

ギリギリの手元資金で資金繰りを回していた場合、ちょっとした引っ掛かりで資金ショートが起きてしまいます。大企業であれば、事前に設定された信用枠の範囲内で機動的に資金調達が可能ですが、中小企業の場合は、都度審査が必要になります。

入金が遅れたり回収不能が原因で資金がショートするとなると、融資審査はより慎重になるため、不測の事態が起きてからの調達は大変難しいものになります。

中小企業は、自己資本比率を気にせず、借入ができる時に最大限の借入をしておくことが望ましいです。極端な例ですが、使うあてのない融資でも借り入れて、別口座でほったらかしにしておくだけでも意味があります。

これは有事に対する備えです。経営状態が悪くなった時に銀行が融資をしてくれないのであれば、経営状態が良い時に借入をして、キャッシュを手元に置いておくことが備えになります。借入金に手をつけなければ、借入と同額の預金を有しているだけですので何らリスクはありません。デメリットは金利が発生することですが、いざと言う時に資金を確保できる保険料と考えれば納得できます。

口座に大金があると気が大きくなり、気前よく使ってしまう経営者様もたまにいらっしゃいますが、目的はキャッシュポジションを高めることですので、その点は注意が必要です。

借りられる時に借りられるだけ借りておく戦略は、教科書通りの財務戦略ではありませんので、財務を学んだことのある方からすれば少し違和感があるかもしれません。銀行の担当者も眉をひそめるかもしれませんが、中小企業が生き抜くためには、これもひとつの正しい戦略です。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)