vol.482【実践コラム】事業承継対策の事例
…自己株式と無保証借入により事業承継対策を行った事例をご紹介します。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
卸事業を行うA社様の事例です。会社の幹部に経営を引き継ぎたいと考えており、そのための対策が求められていました。事業承継時に最もよくある課題は下記の2点です。
- 事業を譲り受ける方が株式の購入資金を用意できない。
- 会社の借入に対して個人が連帯保証をすることに抵抗がある。
A社も同様に上記の課題に直面していました。資本金は1,000万円(1,000株)ですが、幹部の方が個人的に用意できる資金は100万円程度であり、過半数の議決権も取れない状況です。
この問題は自己株の買い取りにより解決しました。自己株の買い取りとは、社長が持っている株式を会社に売却する方法です。会社が買い取った株式は議決権を持ちませんので、大半を会社に売却することで、少数の株式でも経営権を後継者に引き継ぐことができます。
まず、社長が保有している株式1,000株のうち900株を900万円で会社に売却し、残り100株を100万円で後継者に売却しました。これにより、後継者は100万円の資金で100%の経営権を取得することができました。また、社長様も当初出資した1,000万円全額を回収できました。
次に個人保証の問題です。政府は、できるだけ経営者の個人保証をとらないようにしようと「経営者保証に関するガイドライン」を定めましたが、実務上は銀行も保証協会も簡単には無保証に応じてくれないのが現状です。この制度に最も積極的に取り組んでいるのは日本政策金融公庫だと感じます。
A社も個人保証を入れた借入が3,000万円超ありましたが、日本政策金融公庫より無保証で4,000万円の借入を行うことができたため、既存の金融機関とは交渉しやすくなりました。もちろん日本政策金融公庫は、既存借入の肩代わり資金として融資をしてくれた訳ではありませんが、交渉が難航すれば一括返済という最終手段で対応できます。
これらの事業承継対策は短期間に行った訳ではありません。特に自己株の買い取りは、株価の問題もあるため、複数年に分けて行っており、自己株式の買取資金についても、金融機関の協力があって実現しました。
事業承継時にネックとなる問題は「資金」です。事業承継を考えておられる経営者様は、是非ご相談ください。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)