vol.245【実践コラム】複数の会社を経営する場合の資金調達

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広


…1社あたりの資金調達可能額は小さくなります

ある顧問先様が新会社を立ち上げることになりました。現在営んでいる業種とは全く違う業種です。銀行の担当者から、「社長が同一だと融資枠が減るので奥様を社長にしてはどうか?」という提案があったようです。

確かに金融機関は、複数の会社でも実質一体と見なせば融資額を合算して管理するため、1社あたりの借入上限額は小さくなります。例えば、日本政策金融公庫の無担保融資枠は2,000万円ですが、先述の顧問先様は既に1,800万円の借入残があるため、新会社での創業融資は200万円が上限となります。銀行の担当者が言うように、奥様が新会社の代表となれば、既存の会社との関連性はありませんので、通常通り2,000万円の枠内で検討してもらうことができます。

ただ、「社長を同一にしない方が融資をより多く受けられるから良い。」という単純な話でもありません。金融機関の面接は肩書き上の社長が行いますので、専業主婦である奥様が金融機関の面接を上手く乗り切れるかという問題があります。融資枠を減らさないように第三者を社長に据えたところで、そもそも審査に通りにくくなっては本末転倒です。

創業融資の審査は自己資金とキャリアが重視されます。名目だけの社長を引き受けるのに自己資金を投入してくれる方は稀でしょうし、新会社で行う事業に適したキャリアを都合よく有している人材も少ないと思います。融資枠を減らさないために第三者を社長に据えるプランは、本当に経営を任せられるぐらいの人材がいて初めて成り立ちます。

複数の会社を経営しても金融機関から得られる与信は1社分であることを考えると、既存の事業が成長段階にあり、まだまだ資金ニーズがある状態で新会社を立ち上げるのは、財務戦略上良くないことが分かります。もちろん、資金を調達する必要がない事業モデルであれば問題ありませんが、新規事業も資金が必要な事業であれば、最も重要な経営資源が分散してしまいます。

よって、中小企業の場合は借入に頼って事業を多角的に展開するのは困難です。どうしても複数の事業を展開したいと考えるならば、資金のいらない事業モデルを考案するか、まずは小さく事業をスタートさせて、お金ではなく時間をかけて育てていくのが現実的です。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)