vol.158【実践コラム】決算書の簡易セルフチェックの方法
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
…財務目線=金融機関目線で自社の決算書を確認してみましょう
金融機関は「決算書」を拠り所に融資審査を行います。中小企業の場合、税務目線で作成されることが多い決算書ですが、金融機関は税務署ではありませんので、「税金が正しく計算されているか。」ではなく、「貸したお金が本当に返ってくるか。」という視点で見ています。よって、税務上は正しい決算書であっても、提出された決算書をそのまま分析するのではなく、財務の目線で修正したうえで分析を行います。
下記にセルフチェックの手順をご紹介します。すべての金融機関が必ず下記の手順で診断している訳ではありませんが、基本的な考え方としてご了承願います。
1.損益計算書を修正します。
◆ 減価償却不足の修正
減価償却の未計上は税務上問題ありませんが、利益が正しく計上されないため、財務上は必ず計上します。
よって減価償却不足がある場合、「税引き後利益-償却不足額」で利益修正を行います。
◆ 役員報酬の修正
利益を大きく計上するために役員報酬を下げるなど、役員報酬は利益の調整弁になりやすい項目です。役員報酬額を実際に必要な生活費よりも過小に計上している場合は、「実際に必要な生活費(※360万円程度)-帳簿上の役員報酬額」を税引き後利益から差し引きます。
反対に実際に必要な生活費以上の役員報酬を得ている場合は、「帳簿上の役員報酬額-生活に必要な生活費(※800万円程度)」を税引き後利益に加算します。
※金額はイメージしやすいように例示したものです。あくまでも参考程度とお考えください。
2.返済能力を診断します。(診断その1)
修正した損益計算書を基に返済能力を診断します。
企業の返済能力は、「修正後の税引き後利益+減価償却費」で求められます。
この値がプラスであれば、第1段階の診断はクリアです。
マイナスであればプロパー融資を受けるのは難しくなります。
3.借入過多に陥っていないかを診断します。(診断その2)
返済能力を確認したら、次は借入額が返済能力に見合っているかを診断します。
「(金融機関からの借入額-現預金)÷(税引き後利益+減価償却費)」で求められる値が、「10」未満に収まっていれば、新たに融資を受けられる可能性が高まります。
結果が10以上となった場合、新たな借入は難しくなります。
但し、あくまでも簡易診断ですので、正式な算式に当てはめるとクリア出来ている可能性もあります。個別でお問い合わせください。
4.貸借対照表を修正します。
◆ 不良資産の修正
資産の中から実際は価値がないものを減算します。例えば、回収不能な売掛金や貸付金、不良在庫、使途不明な仮払金等は減算の対象です。仮に販売先が破産を申し立てた場合、税務上は破産の手続きが完了するまで資産に計上しておかなくてはなりませんが、実態の回収見込みは殆どないため、財務上は減算する必要があります。
◆ 返済不要な負債の修正
社長個人からの借入金など、差し迫って返済が不要なものは負債から減らします。
5.安全性を診断します。(診断その3)
倒産しにくい会社かどうかを、「自己資本」で判断します。
この場合も、修正後の貸借対照表を基に、「修正後の資産-修正後の負債」で自己資本の額を算出します。診断その1、その2の結果が良好で、この値もプラスであれば、新たな融資を受けられる可能性は非常に高いと考えられます。
以上3つの診断結果はいかがでしたでしょうか。
ひとつでもクリアできていない項目があれば、財務面に問題を抱えていることになります。
お早めにご相談ください。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)